雪の降る日に歴史は変わる

 江戸・東京に権力が座を占めて約400年。その間に、劇的な政治的事件はいくつも起こったが、その中で、日本史上でも決定的な役割を果たした「事件」が、3つある。筆者の独断を許してもらえるならば、時代順に挙げて、1702年の赤穂浪士吉良邸討ち入り、1860年の桜田門外の変、1936年の「2・26事件」である。

 赤穂浪士討ち入りは、それ自体、徳川幕府の政治体制を左右したわけではないが、極めて平和な時代であった元禄社会に与えた影響は大きく、処分を巡って幕閣は論争し「仇討ち」が政治的意味を持つに至った。

 桜田門外の変は、時の総理である大老井伊直弼の命を奪っただけでなく、幕府主導の開国政策にトドメを刺し、その後の倒幕に向けた第一歩が記された。2・26事件は、わずか3日間で収束したものの、軍部によるファシズムへの道はこれを機に一気に加速された。

 3つとも、波及効果の大きさということでは、江戸・東京を舞台とする「政治劇」としては第一級である。

 しかし、この3つの事件では、もう一つの共通点がある。それは、いずれもその日、江戸・東京には雪が降っていた、という点である。3つの事件は、あらかじめ綿密に計画されたものだが、雪までを計算に入れていたとは思えない。たまたま、決行の日に雪が降っただけのことだろう。よもや、雪に誘われて暴発した、というわけではあるまい。

 そもそも江戸・東京では降雪は珍しい自然現象である。一度も降雪を見ない冬もある。今でも雪が降ると、それはテレビニュースのトップ扱いになり、大騒ぎする。それぞれ3つの事件があった日、江戸・東京市民は、降雪と、入ってきた事件勃発のニュースに驚天動地の思いだったろう。

 それにしても、今年の冬は寒かった。もう桜の季節だというのに、まだ足下にはストーブを欠かせない。東京では、3月に入ってからも降雪を見る日があった。しかし、歴史を塗り替えるような事件は、何も起こらなかった。「決断できない」と言われる昨今の政治状況を見れば、さもありなん。

 でも、しかし、そんな中、プライベートな話で申し訳ないが、一つの事件があった。1月の降雪時に、コートの両ポケットに手を突っ込んで歩いていたばかりに、雪で滑って、前のめりに激しく転倒してしまい、歩道に強烈なキッスをしてしまった。3つの事件じゃないが、一帯の白雪を真っ赤な血で染めてしまった。

 まだ顔面の傷は癒えていないが、これによって、自分的には生き様が変わった。「より一層謙虚に」って、ことだ。目立っちゃいけない、目立って良いことなどは一つもない、なんて思っている。

 ウ〜ン、たかだか転倒しただけで、これは少し大げさだね。