最後の宦官・孫耀庭

 「最後の宦官秘聞」(2002年刊、NHK出版)を読了。この本自体、副題に「ラストエンペラー溥儀に仕えて」とある通り、清朝滅亡から満州国に向かった時代、男でない男の集団の中の一人、孫耀庭が語る宮廷秘話を、中国の作家・賈英華がまとめたもの。

 それにしても、歴史上の過去の存在でしかないと思っていた宦官が、つい最近まで存命していたことに驚いてしまう。中国最後の宦官・孫耀庭は1996年12月18日、北京の広化寺で94年の生涯を閉じた。生まれたのは「日暮れに結んだ日英同盟」と学生時代、語呂合わせで暗記した、あの1902年(光緒28年)。

 内容はというと、貧しい家庭に生まれた生い立ちから、その境遇から抜け出すべく、去勢して宦官になろうとしたことに始まり、14歳で溥儀の叔父・載濤邸で初めて宦官として仕え、その後、溥儀の皇后・婉容や、溥儀その人の宦官として宮廷にあり、清朝滅亡後はしばらく流浪の身であったが、溥儀が満州国の皇帝になるや、また溥儀の下で宦官生活を送ったことを振り返っている。

 しかし、それも1945年の日本の敗戦によって終止符を打ち、その後は、一民間人として市井の片隅で生き続けたのだが、新中国では、やはり「文化革命」の時代には、大迫害を受けたことなどを語っている。それでも晩年は、最後の宦官だったという歴史的な重み、あるいは貴重さを理由に、中国政府の手厚い保護を受けていたようだ。

 ただ、この本からは、あの時代の歴史的事実を見直すことになるようなエピソードは垣間見ることができない。あくまでも、一人の宦官の自叙伝といった類のものである。

 そういう意味では、溥儀の家庭教師として雇われたレジナルド・ジョンストンがイギリスに帰国後、著わした「紫禁城の黄昏」(岩波文庫)は、あの時代の政治の裏面を知るという意味で、出色の出来だったような気がする(しかし、同書を読んだのは20年ほど前だから今、読むと違った感想になるかもしれないが)。

 それでも「最後の宦官秘聞」からは、溥儀が決して線の細い弱々しい皇帝ではなく、かなり我が儘で、意外にも権謀に長けていたことなど、私のこれまでのイメージを覆すような箇所も随所に出てくる。

 また、漠然とそうではないかと思っていた「男色」についても、そうであったことは間違いないようだ。婉容との不仲も、やはりこうしたところに理由があったのだ。これまで読んだ書籍や、映画「ラストエンペラー」では、この点をひどくぼかしているものだから、これまで今一つ、分からないでいた。

 そこで、ヨシッ!とばかりに、もう少し、この時代を背景にした小説などを読みたくて、浅田次郎の「中原の虹」(講談社)を読み始めた。「蒼穹の昴」シリーズ第3部とされている。余談だが、1部となる「蒼穹の昴」、2部の「珍妃の井戸」は以前、maruhoppeさんにお借りして読んだ。

 で「中原の虹」は今回、1巻と2巻を私メが購入したのだが、先にmaruhoppeさんにお貸しし、かの女史は私メより先に読了。「3巻と4巻を早く購入しろ」と、せっついてくる。待て待て、私メが1巻と2巻を読めば直ぐに購入するから、ってことでいいですか、maruhoppeさん。